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vol.4

施主・工務店・林業家が協同して創る地域密着型の循環型住宅。

有限会社 田中建設 代表取締役 田中司

すべての生命に生かされている──という謙虚な姿勢が循環型住宅の原点。

「住宅もまた自然の一部」だと、

田中社長は言う。

素材、流通、施工技術、設備、

リサイクルなど、総合的な視点から、

環境負荷の低減を模索している。

■ 省エネルギーだけでなく、循環型の住宅建築に取り組んでいらっしゃいます。


田中/日本の木造住宅の寿命は、およそ30年前後。先進国のなかでは最も短いものです。スクラップ&ビルドという新陳代謝のサイクルは、家計に多大な負担をかけるだけでなく、環境にも大きな負荷を与えてしまうことは周知の事実です。ドイツではバウビオロギー(建築生物学)と呼ばれる動きがあり、それに先立ちアメリカの西海岸ではエコロジー建築が試みられてきました。日本では環境共生住宅という言葉で置き換えられることもあります。省エネルギーの推進は大前提ですが、これからは森林資源やほかの生き物を生かし、生かされるという協同作業、共生を求められているのだと思います。住宅もまた自然の一部として考えることは、懐古主義に基づくものではありません。発展した科学技術はそれはそれで応用し、地域の森や周辺の自然との共生を考え、他の生き物たちに生活の場を提供することも視野に入れていくことが必要です。近場の森林資源を活用する、いったん伐り出した木はその樹齢以上に長く使わせていただく、廃棄時にも土に還る素材を使い、端材として出たものは木炭にして再利用していく──といった細かな配慮も環境と共生することであり、そこにはむしろ積極的に高度な建築手法が駆使されるべきだと考えています。

施主と一緒に山に入り、

材料選びから参加してもらう取り組みも始めた。

清々しい森の空気。丸太の存在感。

山を訪れた施主は、

家づくりの循環を体で感じてくれる。

■ 施主と一緒に山に入ることもあるのですね。


田中/岩手県産のスギ材をはじめ、南部アカマツ、カラマツ、クリ、青森ヒバなどを扱う林業家、製材所とのネットワーク化を図りながら、それらを割安で仕入れる流通ルートを確保しています。新築、増改築を数年後に控えるお客さまには、計画時点から山に入って木を選び、天然乾燥をしたうえで使用することも増えてきました。山の表情はもちろん、林業家の顔も見える関係がそこにできます。廃材は自社で木炭に加工し、敷地に埋設して土壌の浄化を図るとともに、基礎コンクリート上に設置して床下空間の調湿及び空気の清浄化にも役立てています。
また、農業方面で注目を集めているEM菌を住宅建築に応用しようという試みも始めています。化学肥料・農薬で荒れた土壌を蘇生させるEM菌の抗酸化力を住宅に応用すれば、家具などに使用される防腐剤や塗装や接着剤の化学物質を分解することも可能です。珪藻土に混入すれば空気の浄化作用はさらに強化され、基礎コンクリートに混入することで鉄筋の錆びを予防し、耐久性を向上させることがわかっています。家庭から出る生ゴミを有機肥料にする効果もあり、家庭菜園などでの応用も考えれば、使用範囲は無限大です。
自然の素材は、容易な加工、修理も可能です。地元の木を使い、森の再生を進めることは、住み手自らがきれいな空気や水をつくり出していくことでもあります。生産と消費の流れが一方通行ではなく、多元的になることで、住宅も初めて環境と共生することができるのではないでしょうか。

森林資源の「産直」ネットワークをより強固なものにしていきたい。

林業家、製材所から

直接仕入れるメリットの一つが、

長尺物を割安に仕入れられること。

写真のように長さ10メートル超の梁も

珍しくない。

■ 県産材や自然素材の採用は理想ではありますが、それがコスト高として反映されてきませんか。


田中/確かに、これまでは山側の顔が見える家づくりへの思いを抱きながらも、コストを優先した結果、流通品を主体にした家づくりも少なくありませんでした。反対に素材にこだわればコストが高くなったのも事実。しかし、ここ数年の間で、県内の林業家、製材所との流通システムを整え、スギ材をはじめ、南部アカマツ、クリなども、長尺物までも従来とほぼ変わらないコストで仕入れることができるようになっています。これまでとほぼ同じコストで、こうした考えの住宅を実現することに意味があるのです。伐採時期にも旬があります。春から夏かけては樹木の生長が早く、水分や養分を多く含みます。しっかり乾燥させないと、反りや狂いも生じやすい。かといって、天然乾燥を前提とすれば、水分を多く含む材ほど使うまでに時間がかかり、それもコストに反映されてしまうこともあります。だから、木が生長を休む冬に伐採するなどの配慮が必要なわけです。新築や増改築まで数年余裕がある施主には、間取りがほぼ固まった時点で山に入って一緒に木を見定め、できるだけ天然乾燥を経て使用する提案も始めています。

今年11月に完成したH邸は、

使用木材の9割以上が岩手県産材。

ほとんどが大船渡の気仙スギである。

写真は8月上旬の現場風景。

■ 山側のメリットとは。


田中/こうしたシステムの構築は、林業家にとっても利点が多いと思います。まずは、確実な販路が確保できること。これまでは施主の顔を一度も見ることもなく、山で伐る、製材するだけだったものが、山のしくみ、自分たちの仕事の内容までも、施主に知ってもらうことができるわけです。自分たちが伐った木が、どこでどう使われているかが確認できることで、やり甲斐もでてくるでしょう。
工務店にとっても、多くのメリットがあります。いわゆる長尺もの(7メートル以上)は一般の製材所で挽くのは難しく、通し柱もせいぜい6メートルが限界でした。かといって一般の流通経路を通すと、太いもの、長いものは特別扱いとなり、料金も通常の数倍に跳ね上がることもあります。山側と直接ルートをもつことで、これまで高嶺の花だった長尺ものも、柔軟に使うことが可能になってきたわけです。そして何より、施主にとってのメリットは計り知れません。自分の家に使う木をじかに山で伐る体験と感動。材料すべての「顔」が見えることで、山から家づくり、そして一生涯にわたって、その木と暮らす物語がそこに生まれてきます。お父さんお母さんが大事に大事に建てた家を、次の世代の子どもたちにまで、伝えていく歓びは大きい。その歓びはまた、施主だけではなく、工務店や林業家と共有できる歓びでもあるのです。あとは施主がこの『時間』をどう理解してくれるかにかかっているかです。

温熱環境を整えることは、生涯、そこに住まう家族の生命を守ること。

普段は朴訥だが、

家づくりを語る口調は熱い。

ボーイスカウト活動など、

地域活動にも熱心である。

■ 住宅の基本性能について、どう考えていますか。


田中/私たちが、いわゆる高断熱・高気密住宅に取り組んだのは18年前のこと。当時から、北海道基準の性能確保に取り組んできました。温熱環境・省エネルギーのレベルにおいて、国の次世代基準をクリアすることは大前提です。人間にとって、寒さ、暑さを最大のバリアととらえ、そこに住む人を生涯守り抜いていくための家という考え方です。省エネルギーだけではなく、ヒートショックを予防し、介護の状態になってもなお、住み慣れた我が家で快適に、健やかに暮らしていただきたい──。そんな願いがあれば、地元の木を使った、自然素材を多用したから、それでよしということにはならないはず。
欧米では引き渡し時に、気密測定機や熱カメラでの温度分布の点検を徹底し、性能を確かめることが普通です。私たちも、引き渡し時に気密測定を欠かしたことはありません。断熱・気密性能が明確になることで、エネルギー消費量も正確にはじき出すことができます。将来、年金生活になっても、この家だと厳寒期でもこの程度の光熱費でまかなえる…といった試算を提供するのは、ビルダーにとって当然の責務でもあります。

大空間の吹き抜けでも、

天井から1階床までの温度差はわずか。

躯体の断熱・気密性能が高さが、

空間の自由度を生む。

■──編集後記 
岩手県内における性能住宅の草分けである。北海道レベルの高断熱・高気密住宅に取り組み始めたのは18年前。これまで、国の次世代省エネ基準をクリアした住宅は数十棟の実績。かねてから県産材の使用割合を高めたいという願いはあった。が、旧態依然の流通ルートに悩まされてきた。2年前、ようやく地元の製材所、大船渡の林業家たちとのネットワークを確立。施主と工務店と山側、それぞれ「顔」の見える関係ができた。角材になった規格品を仕入れるのではない。丸太を一山いくらで購入し、そこから用途に合わせて製材する。無節の部分は腰板に、強度はあるが節があり、角材に使えない材は梁に用いる。さらに余った木は造作に使う。まさに適材適所、現場でもほとんど無駄がない。それでも余った端材は、旧宅解体後の廃材とともに自社の炭窯で木炭に加工。きれいに焼けたものはかごに入れて床下に置き、屑状になったものは敷地の土壌に混ぜて改良材とする。シロアリの忌避効果もある。施主と一緒に山に入ることも増えてきた。一緒に樹を選び、製材現場を見学し、構造材、内装材、建具まで施主の暮らしに合わせて手加工する。既製品の家具は使わず、キッチン、クローゼット、収納を造り付けとする家も珍しくない。「家だけでなく、暮らしのディテールまで施主と一緒に造り上げていく家づくりをスタンダードにしたい」。そうすることで大工だけでなく、製材、左官、屋根、建具…など、地元に根ざして生きてきた職人たちの技が、明日へと継承されていく。大工は7人。経験の短い人で10年、30年以上の年季を積んだ大工もいる。社長の田中さんをはじめ、大工の皆さんも一様に口数は少ない。しかし、完成した家はいつも、静謐ではあるけれど、燃え立つようなエネルギーに満ちている。それは、大地と木と家と人とが一つとなって繋がったときに初めて醸し出される、健やかな「気」のようでもある。

暖房手法も施主の暮らしごとにさまざまな提案を行う。写真のH邸では、ペレットストーブと温水パネルヒーターを採用。各室に配置した温水パネルヒーターで真冬でも寒さを感じない程度の室温を保ち、より積極的に暖をとりたいときにペレットストーブに火を灯す。

建築途中に出る端材や解体時の廃棄木材などを、自社の窯で木炭にしている。できた炭は土壌に混ぜたり基礎の上に置くなどして活用。

建具や家具も手づくりが多い。施主の希望するデザインをもとに、購入した木材のなかから適材を使って仕上げていく。写真の家では棚はすべて可動式。

加齢後も安心して暮らしていけるバリアフリーの視点や、10年後、20年後の家族を見据え、世代を越えて住み継いでいける可変性も配慮したプランニング

■たなか つかさ

1960年、岩手県岩手郡岩手町生まれ。代表取締役を務める(有)田中建設は1954年の創業。18年前から高断熱・高気密の家づくりを学び、岩手住環境技術研究会の発足当初からのメンバー。後進となる同業他社への技術指導にも快く応じ、その人柄を慕う同業者も多い。住まいの回りの環境浄化など環境問題にも関心が深く、住宅における「3R」──リサイクル(再資源化)・リデュース(最終処分量の最少化)・リユース(再使用)──にも熱心に取り組んでいる。趣味はスキー、ボーイスカウト活動。血液型A 型。

有限会社 田中建設
岩手県岩手郡岩手町大字久保8-170-2 TEL:0195-62-2638  FAX:0195-62-2336 
http://www.ohhonosumika.com  E-mail
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