寒さや暑さは我慢して当然。より立派に、広く、見栄えよく…といった意識が、 いまだ蔓延しているのは残念なことです。温熱環境の問題を置き去りにしたまま 、自然素材を使うだけで健康住宅をうたうビルダーも少なくありません。医学から建築へのアプローチも未熟なままです。そこに暮らす人が、肉体的にも精神的にも、ストレスを感じない建物であること。そのためには構造学だけではなく、熱力学が欠かせないのです。脳卒中や心臓発作などのヒートショックの予防効果を高め、ダニ・カビの温床となる結露を防ぎ、化学物質の多用や換気不足によるシックハウス症候群から家族一人ひとりを守る家──。それらが実現できて初めて、次代に住み継げる健康的で安全な家になります。
日本の住宅の平均的な寿命は20年前後。住宅ローンを返済するために働き続け、 払い終えると間もなく建て替え…そんなサイクルのなかで、私たち日本人は暮らしてきました。クルマでも冷蔵庫でも、まだ使えるのに、ニューモデルが出ると古いものはお払い箱。そんな感覚で家も扱われてきたのです。膨大な資源やエネルギーを費して完成した家は、耐久性が高く、家族の年齢や構成、生活様式が変 わってもフレキシブルに対応できる可変的な家であることが大切です。1本の木 が50年以上の歳月をかけて生長したことを考えると、少なくとも50年以上の耐久性がないと自然のサイクルに適合しないことになります。次代に生きる子どもたちに、負の遺産を残さない家を考えましょう。
クルマの燃費はリッター何キロ走るかなどと気にしても、住宅内で消費するエネルギー効率を話題にする人はいまだ多くはありません。割安に建てた家でも、断熱性・気密性が低いために、暖冷房エネルギーの消費が増えてしまうのでは、生涯のなかで支払うコストは結局割高になってしまいます。建設時の費用も大切で すが、建物の寿命を全うするまでの年月を考え、ライフサイクルコストを緻密に計算して建てることが大切なのです。生涯にわたって家計に占める割合の多い暖冷房コストを限りなくゼロに近づけ、寿命が長く、数十年後の廃棄時にも土に還ることのできる素材を使った家こそ、環境と共生できる家の基本。いまこそ、家 のありようからもエコロジーを真剣に考える時代です。
65歳以上の高齢者の死亡事故発生状況を見ると、その7割近くが家庭内事故によるものです。年をとると心身機能が次第に衰え、階段を踏みはずした り、廊下で滑ったり、段差でつまづいたりすることが多くなります。急に温度の低い場所に移動するときに多発する脳卒中や心臓病の危険、化学物質による室内換気汚染やカビ・ダニによるアレルギーに悩む人も少なくありません。介護にもストレスのないスムーズな設計、パジャマ一枚でも過ごせる温熱環境の整備など、家が人の健康や生命を脅かす凶器にならないように、設計者や工務店はもちろん、ユーザー自身も自らの加齢後に備え、住まいに対する考え方を見直す時期に来ています。家を考えることは福祉を再考することにほかなりません。
全国均一、工場で規格化された家の「商品化」によって、山側に生きる人、町に住む家のつくり手、 あらゆる分野の職人との交流が希薄になったままです。「家 と人。NET」は、ハウスメーカーの提供する「商品」としての家と一線を画し、地域に根ざした地場工務店が技術の粋を集めて建てる家を応援しています。できるだけ近くの山の木を用い、製材から大工、左官など、あらゆる分野の職人の技術が存分に発揮される土壌の復活が、いまほど求められている時代はないからです 。伝統工法や自然素材というキーワードに加え、温熱環境の整備、さらなる省エネルギーまでも包括して考えることのできる地場工務店の復権こそが、新しい日本の住文化を創造する基盤になると考えます。