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「家」の現場
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vol.6

コストダウンと高性能── 相反するテーマをクリアした完全6面体キューブ構造。

株式会社 伸栄建設 【岩手県盛岡市】

一を聞いて十を知る、ベテラン揃いの寡黙な現場

井上棟梁の仕事をじっと見つめる田村社長。
井上棟梁は2級建築士でもある。
現場の理解が早く、打ち合わせもほとんどしない。
現場の棟梁で建築士の資格を持つ人がいるのは心強い。

晩秋の昼下がり。カンカンカンとトンカチの音が響く現場に、社長の田村栄耕の姿があった。ズボンのポケットに手をいれ、無言のまま、井上清充棟梁の仕事をじっと見守っている。井上棟梁もまた、黙々と手を動かすのみ。しばらくすると、田村は静かにそこを離れ、ぐるっと現場を一回りし、帰途につく。

靴にはいつも泥がついている。それだけ、現場を歩いている証拠である。田村の元に16歳で見習いに入って30年以上が過ぎ、田村流の家づくりを会得している井上棟梁の現場はさておき、他の現場も、1日1度以上は見て回る。そんな田村の目が行き渡る現場には、いい緊張感が漂う。しかしそこでも、大工たちに声をかけることはめったにない。

「うちは会話のない会社だから」。田村は笑う。ミーティングはなし。裏返せば、そんな必要がないほど「一を聞いて十を知る」関係がそこにある。社員は5名。応援を頼む社外の大工を含めて、皆、20年、30年のキャリアを持つベテラン揃いだ。なかには田村が文字通り「同じ釜の飯」で育てた者もいる。

安心して任せておけるにもかかわらず、現場歩きを日課にしているのは、1軒ごとの進行状況を把握するため。施主からの問い合わせに、いつでも自信を持って答えるためでもある。しかし、実のところ、誰よりも現場が好きなのだ。

西根町の大農家に生まれ、16歳で建築の世界へ。修業時代を経て、1975年、28歳で盛岡で独立創業し、7年後の82年に法人化した。田村が興した伸栄建設は、盛岡に根差し、一貫して木をふんだんに使った在来構法の家づくりに取り組み続けている。

「在来構法の良さ」を活かすために選んだ工法

豪胆でありながら、慎重。
「建物も人間も、無理は禁物。道理に逆らうと後が怖い」。
頑強でありながら、そこにしなやかさを感じさせる家づくりは
「大人」の香りを放っている。

いわゆる「高断熱・高気密」の家づくりに着手したのは80年代後半から。性能住宅の先進地であった北海道を訪れるなどして勉強を重ね、大手化学メーカー・カネカが考案した「ソーラーサーキット工法(外断熱・二重通気工法)」を、その誕生とほぼ同時期の89年から採用してきた。

「継手・仕口による伝統的構法も学んできた。神社仏閣のような建物を建てて軸組の技をふるい、断熱・気密なんて関係ない、冬に寒いのは当たり前・・・大工だったら、そうしたいのが本音だと思う。でも、それは人の住む建物じゃない」。生まれ育った周囲には、真冬、家の中でもほっかむりをして寒さをしのぐ人がたくさんいた。「少なくともこの岩手では、人が暮らす上でもっと心身が楽になる家、寒さ暑さの影響を受けない家をつくるべきではないのか」。そうした問題意識が、住宅性能を考えるきっかけになった。

在来構法の良さは消したくない。在来構法にとって最も無理なく施工できる断熱方法とは──そこで残ったのが、外張り断熱であり、ソーラーサーキット工法だった。年に4~5棟のペースで受注する新築戸建て住宅は、ほぼ100%同工法。その数は間もなく60棟になる(2007年11月現在)。

「古いだけでもだめ、新しいだけでもだめ。古きに学んだことを、新しい方法でやる。従来のものをすべて肯定するのでも、否定するのでもなく、良いところは活かし、足りないところは補い高める。先人たちも、こうやって悩みながら、それが結果として伝統をつくってきたのだと思う」

「温故知新」。田村の座右の銘である。

性能を上げたいのではなく、暮らしの豊かさをつくりたい

2005年に竣工した盛岡市I邸。
建坪は約55坪のオール電化住宅で、C値0.16、Q値1.45。
その住宅性能の高さは、岩手県が2003年から05年まで
実施した「いわて省エネ・新エネ住宅大賞」でも、
準大賞、優秀賞、優秀賞と、
連続入賞を果たしていることでも証明されている。

工法はあくまで工法。共通する断熱部材などを除き、使用する木材の質や量、内装材の選定、プランの提案力などは工務店それぞれである。特に、隙間相当面積(C値)の数値は、各社の施工精度の差が如実に表れる。

伸栄建設のC値は5年前の平均で0.2㎠/㎡、この1年の平均は0.16㎠/㎡。最近は0.1を切る物件も出ている。

「もっと精度を上げろと、大工にいったりはしない。みんな勝手にやっているだけ」

棟梁たちが、それぞれの現場で、自身のプライドにかけて、誰に頼まれることなく精度を上げていく。どの現場にも「この程度でいいだろう」という甘えはない。1棟1棟必ず気密測定と換気風量測定を行い、目に見える結果を出す。一つひとつの仕事は、施主のためであると同時に、自分たちの技術を磨くためでもある。熱損失係数(Q値)も平均1.41W/㎡・K。新築物件のほとんどがオール電化で、入居世帯の電気代は年間14万円前後(建坪平均55坪)。住宅の性能は光熱費に直結する。カビ・ダニとも無縁な屋内環境は、人の健康だけでなく、建物の耐久性をも伸ばす。総合的な結果として、省エネルギーにもなる。

「性能」が先ではなく、あくまで暮らしを優先にすることで、導き出される「性能」なのである。

完成後は目に見えない、「楽屋裏」に注ぐ技術

建物の根幹を支える基礎、構造材に対するこだわりは強い。
空間に漂う重量感、安定感は、
見えない部分こそ手抜きをしない、という表れ。



施工現場を目にした人は、同社の耐圧盤基礎(ベタ基礎)を見て、「ここにビルでも建つのか」と思う人が少なくない。直径13ミリの鉄筋を200ミリピッチで入れる。スラブ厚は150~180ミリ。田村が「これならお客さんに引き渡して、後ろめたいところはない」と言い切れる、独自の基準である。

「手抜きができるくらいの技術があったら、とっくにやっている。ほんとうの手抜きとは、建ててから施主がその家で死ぬまで何の支障も出ずに暮らせる程度のものにしたうえで手数を省くってこと。俺はそれができない。だから、手間をかける」

主要な構造材には、強度を高めた乾燥材を使用。2~3週間かけてゆっくり乾燥させて含水率15%以下にし、比重やねじれを1本1本検査した上で出荷されていることを確認済みだ。床を受ける根太も120×45ミリ角材が標準。どの部分でも、ピアノ程度の重量に耐える。柱数も多い。経年変化によって建物が動く危険を、素材と施工の両面から予防するためだ。こうした積み重ねで、同社が1軒に投入する木材量は、一般木造住宅のおよそ2~3割増。梁や柱を空間に露出させて意匠的に魅せることもあるが、大半は壁や床、天井に隠れてしまう。

「楽屋裏の者は、舞台には出ないもんだ」。伸栄建設の真骨頂は、完成後は目に見えない部分にこそ隠されている。

「俺はス、施主に選ばれるのではなく、施主を選ぶのス」

社屋前にて。
左から、田村社長、経理や総務を担当する民子夫人、
営業の阿部光徳さん。

施主との打ち合わせは、入社20年以上になるベテラン、阿部光徳が中心となる。施主の希望を元にプランを考え、田村に見せる。施工面で無理がないか、施主の暮らし方から、どんな可変性を考慮すべきか。今度は設計の視点から詰め直して、田村自らが図面として起こす。トレース台に向かって線を引くその姿は、いつもの現場を回る田村のそれではなく、建築士そのものである。

デザイン重視ではなく、あくまで施主の生活を見極めたプランに徹してきた。「ろくに掃除もしないのに、どこもかしこも真っ白くつくったって仕方ない」「朝食はご飯と味噌汁を食べてきた人に、いきなりパンとスクランブルエッグを出すような家にしてどうする」。そんなキツイ直言が、施主を前にぽんぽんと出てくる。歯に衣を着せない意見がいじわるく聞こえないのは、田村が本気で施主家族一人ひとりの思いを抱え、最善の方法を探ろうとしている気持ちが伝わるからだ。

「俺はお客さんの言いなりにはならない。大金を預かるのだし、一生に一度かもしれない家づくりだから。それで断られたら、貧乏するだけだ(笑い)」

言葉にすると高飛車に聞こえるかもしれないが、そんな印象はみじんも感じさせない。

焦らず、倦まず、やってくる「ご縁」をじっと待つ。そんな「大人」の社長がつくる家は、いつも揺るぎない安心感に包まれている。(文中敬称略)

■──編集後記
田村社長は哲学者である。例え話の大半は、男と女の話。ユーモアにくるんで、この世の道理を語る。聴き手は大笑いしながら、ふと、そこに潜むメッセージに気付かされる。
「人間、好きに生きた方がいい。みんないかに死ぬために生きているんだから」
こんな言葉を、下ネタの後でさらっと言う。田村社長の「好きに生きる」は、相応の厳しさを覚悟しての「好きに生きる」なのである。
きつい訛りで、お施主さんにも、訪れたメーカーの営業マンにも、研究者たちにも、臆せず意見をいう。この人の前にあっては、社会的地位のあるなしは関係ない。有形無形の装飾物に惑わされることなく、まっすぐに本質を見据える。この人を怖いと思う人がいたら、自分のなかにある嘘を繕えない怖さだろう。
田村社長の前で、売上が伸びないと愚痴をこぼすと「売上が伸びるとか、企業として成長するとか、そんなことを考えるのがおかしい」と逆説めいた言葉で一喝された。──限りなく伸びるものなんてこの世にありえない、平地にある草木の伸びと、高地にある高山植物を見比べてみろ。平地の草木は伸びた分だけ必ず中身も成長しているか? 根腐れて倒れてるのもいっぱいあるだろう。それに比べて、高山植物はあんなに小さいが、100年たっても繰り返し命をつないでるじゃないか──と。
「世の中、自分の職業を金儲けの道具と思うのは間違い」なのだそうだ。まずは与えられた仕事に自分の持てる力を最大限発揮する。お金はそれに対する正当な報酬である、と。 「そういう気持ちで働いていれば、ご飯を食べられるくらいのお金はちゃんと入ってくる」。 この人たちが手がけた家の佇まいを思うとき、それは真実かもしれないと、励まされるのである。

事務所に掲げられた「温故知新」の書。田村社長の座右の銘である。

直径13ミリの鉄筋を200ミリピッチで組む耐圧盤基礎。スラブ厚は150~180ミリある。

設計図を引くのは、2級建築士でもある田村社長。現場回りの合間を縫ってはトレース台に向かう。

カフスに「タムタム」の刺繍が入ったワイシャツは、施主の家族からのプレゼント。

外観のデザインはさまざまだが、施主の好みは周囲の景観に馴染む、どちらかというと和風のものが多い。(岩手県盛岡市S邸)。

毎日一緒に出勤する、16歳の愛犬・憲じろう。自宅では田村社長が入浴係。真っ白な毛はいつもふさふさ。

DATA
工法 木造軸組 ソーラーサーキット工法
平均隙間相当面積 0.16cm2/m2
平均熱損失係数 1.41W/m2・K
社名・連絡先 株式会社 伸栄建設
岩手県盛岡市月が丘3丁目49-4 TEL 019-641-2163 FAX 019-641-3085
http://www.shinei-kensetsu.com/  E-mail
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