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vol.2

伝統を守るための先進技術。木の家づくり一筋の、職人魂に触れる。

有限会社 高橋工務店 【岩手県岩手郡雫石町】

住む人を寒さから守り、大工の技術も活かす構法

雫石町生まれ、雫石町育ちの高橋社長。
この道に入って40年を超えた。

盛岡の奥座敷・鶯宿温泉を目指して車を走らせる。湯田温泉郷方面を指す標識を目印に左折。山間を縫うように伸びる県道1号をひたすらまっすぐ進むこと約10分。県道を左に逸れた一角に、高橋工務店がある。

「よく来た。ささ、入って」

にっこり笑って手招きしてくれたのは、社長の高橋憲功。1949年、雫石町生まれ。10代半ばで町内の棟梁に弟子入りし、10年間住み込みで在来工法の技術を身につけた。柔和な顔と相反する、厚くがっちりとした体つきは、修業時代の賜だ。若い頃、銭湯に行くと「何の仕事をしているんだ」と周囲の人に驚かれるほどだった。

独立して、30年になる。高断熱・高気密の家づくりに取り組み始めたのは20年ほど前のこと。建材会社の勧めで、盛岡近在の地域工務店数社と勉強を始めた。住宅の高性能化が進んでいた北海道へ何度も視察に赴き、これからの家づくりに欠かせない技術だと確信した。

「岩手はこれだけ寒さが厳しいところなのに、それまでの自分は東京の家と同じものをつくっていた。それがおかしいと気づかせてもらった」

いくつかの工法を試しながら、たどりついたのはSHS(スタイロ・ハウス・システム)工法。構造体の外側に板状断熱材を張る外張り断熱。在来工法の木組みをそのまま活かすこともできる。他の工法に比べ、 比較的容易に気密性能が上がる手応えも感じた。

長く厳しい冬の間も、家のなかでは寒さを感じない断熱・気密性能にすること。伝統の大工技術が活かせること。日本ならではの木の家の伝統を守ること。これらをすべて叶えようとすると「外断熱工法がベストという結論になった」と高橋は言う。

口べたな社長に代わって、OB 施主が営業マンに

自社の大工は社長と共に20~25年働いてきたというベテラン揃い。
打ち合わせは短く、的確。みなあっという間に持ち場へ散る。

社員はみな大工で、経理は夫人が担当。営業マンはいない。設計も営業も高橋の仕事だが「俺は、いまも現場で体を動かすほうが好きだ」と苦笑する。

技術は体で覚えてきた。家づくりにかける意気込みは負けないつもりだし、つくった家にもそれなりの自信がある。が、いかんせん口べた。宣伝も苦手で、会社案内もつくらず、ホームページも持たず、メールも使い方を知らずに、今日まで来た。やりとりはもっぱら電話。もしくは直接会うのみ。

ごくたまに完成現場の見学会を開いても、自分から積極的にお客さんに話しかけることはない。端から見ればもどかしいほどの控えめさだ。しかし、社長が寡黙な分、手がけた家が、住み心地で施主を魅了する。

いちばんの営業マンはOB施主だ。真冬の朝も布団から起きるのが楽。家中がやわらかい暖かさに包まれている。マイナス10度の厳寒の夜も、水道の水を落とす心配がない。光熱費が安くなった。結露が出なくなった──等々。  
 施主が知り合いに伝えるのだろう。仕事は大抵口コミでやってくる。創業30年を超え、親子2代にわたって仕事を依頼されるケースも多い。地域に根差す工務店の醍醐味ともいえる。

木の家づくりは、自然と人を結ぶための仕事

次世代省エネ基準クリアが標準性能。
真冬もわずかな暖房エネルギーで家全体を暖める。

いまでこそ、高断熱・高気密や全館暖房という言葉がユーザーに知られつつあるが、高橋がそうした家づくりを始めた20年前は、施主はもちろん、同業者にもなかなか理解されなかった。

一般ユーザーを相手に、一から説明して理解を得るのは容易ではない。ましてや言葉で伝えるのは苦手な性分。

幸い「予算の範囲内であれば」と信頼して任せてくれる施主がほとんど。あとはつくり手の良心の問題と心を決めた。

以後、どんなに厳しい予算でも断熱・気密施工を疎かにしたことはない。次世代省エネルギー基準をクリアする性能は、高橋にとってあくまで標準仕様なのである。

手を抜けないのは、性能だけではない。木材の質にも徹底してこだわる。木は生き物。家の一部となってからも、木は育った通りに動こうとする。一見真っ直ぐに見える木でも、収めたあとで暴れる場合も少なくない。一本一本の癖を読み、建物が内側に締まっていくように組む。そうした意識が、高橋の体に染みついている。

「この仕事は自然を相手にしている仕事であることを、絶対に忘れちゃいけない。木の力を侮ると、少しずつ建物が崩れていく」

製材後の角材に触れるだけで、素材の良し悪しがわかる。いくらきれいな木目でも、手触りに違和感があれば、仕入れ元に突き返す。

およそ施主が判断できるレベルではないと思っても、「目利きの人が見たとき、ここの大工はこの程度かと思われたくはない」から、自分をごまかすことはしない。名木がほしいのではない。家と家族を支える木として、最高の材がほしいだけだ。

「だから製材所からいい木が入ったと聞くと、すぐ使う予定がなくてもつい買っておきたくなるんだよ(笑い)」

製材の技術から木組みの技まで

社長は「和風」でも、手がける家は多彩。
マツやスギなどの無垢材をふんだんに使ったセカンドハウスの施工例。

1989年に、継ぎ手や仕口などを機械で加工するプレカット加工機を導入した。手工具を使っての手刻みもするが、工期がかかる。昔ながらの接合技術を残しながら、精度を高め、工期短縮によるコストダウンを施主に還元できればと考えた。

そうしていま、高橋が切実に願うのは「在来工法の伝統技術を若い世代に伝えたい」ということだ。

「木を読めない、樹種を知らない、カンナもろくに使えない、和室もつくれない…そんな大工が増えている。技術をつなぐことは、自分たちの世代の責任でもあると思う」

上下逆さまに立てた柱や、天地や表裏を誤った梁を、同業者の物件に見つけることも多い。高橋には一目瞭然だが、そうとは知らずに納めている同業者があまりに多いことが悲しい。製材鋸目立て工や製材工など、木造の家づくりを支える職人が減っていることも危惧している。一本の丸太のどこにどう刃を入れるかで、木は生かされも殺されもする。製材の質は、現場の作業効率や完成後の耐久性にまで影響する──。そんなことを教えてくれた恩人たちが、次々に仕事の場を無くし、やむなく引退していったことが寂しくて、くやしい。

家づくりは地域づくりでもある

大工の育成とともに、もう一つ、高橋が力を入れているものがある。雫石町大村地区に伝わる伝統芸能「正福院山祗(しょうふくいんやまつみ)神楽」の伝承だ。町の無形民俗文化財第一号で、高橋はその保存会会長を務めている。

正福院山祗神楽は、江戸時代(寛文年間)に繋にあった正福院というお寺の山伏が大村地区の若者に教え踊らせたのが始まりとされ、伝承は300年を超える。踊り手の高齢化によって一時は後継者が激減したが、最近は若い世代を中心に伝承活動も活発になり、2006年8月には姉妹都市を結ぶ南ドイツでも公演。いまは地元の小学校でも指導している。

仕事の合間を縫っての活動だが、子どもの頃から親しんできた神楽を絶やしたくはない。いい家をつくっても、暮らす地域に魅力がなければ寂しい。家づくりも神楽の伝承も、その根っこは同じだ。

このまちでも、過疎化は加速度的に進んでいる。厳寒期、外気と同じような室温のなかで暮らす高齢者世帯も増える一方である。数十年にわたって快適な家、エネルギーを浪費しない家、長い間伝承されてきた伝統の構法を継承できる家──。「そんな家づくりも、地域づくりの一つだと思っているんです」 (文中敬称略)。

ただでさえ穏やかな顔が、
愛犬を抱くとご覧の通り、一層やさしい顔に。

■──編集後記
インターネットもメールも扱えない。自ら現場を回っているため、事務所も留守にすることが多い。高橋社長と連絡をとりたいときは、電話がつながるのを待つか、留守電に吹き込む、FAXを入れておく、という方法から選ぶしかない。いまどきのコミュニケーションツールとは無縁だが、ひとたび顔を合わせ、厚い掌と握手でも交わせば、そんなことは気にならなくなるに違いない。決して話し上手ではないが、一言一言にゆるぎない経験と生来の誠実さがにじむ。いま、木の活かし方をこれほど知り尽くして建てている社長も少ないのではないか。以前から、この人の建てた家に一歩入った瞬間、なんともいえない安心感に包まれることが不思議だった。守られている、そう思えて、いつまでも長居したくなるのだ。その訳が、今回の取材でわかった。木を一本選ぶところからこれだけの気配り目配りを利かせているのだ。その積み重ねでできる家は、家自身が自らを誇らしく思っているようにも見える。町内を歩いていると、施主のほうから「あら、社長」と笑顔で声をかけてくる。そんな光景を見ていると、家はやはり地域に根差して生きる人と建てるほうが幸せだと、改めて思う。

漆喰クロスに琉球畳で仕上げた和室。オール電化住宅の実績も多い。

雫石町大村地区に伝承されている正福院山祗神楽。高橋社長が保存会長を務めている。

口下手だけれど言葉は温かい。はにかむような、笑顔が印象的。

依頼があると社長自ら訪問し、施主の希望を聞きながら、一からプランを練り上げていく。

精緻なプレカットも鉋かけも準備万端整えてから現場へ。現場で組む速さにも定評がある。

11月に完成したばかりの物件。チェダーオレンジの外壁が青空に映える。

DATA
工法 木造軸組・外張り断熱(SHS工法)
平均隙間相当面積 0.2cm2/m2前後
平均熱損失係数 1.6W/m2・K以下
社名・連絡先 有限会社 高橋工務店
岩手県岩手郡雫石町南畑7-55 TEL 019-695-2021 FAX 019-695-2529

http://www.taka-kou.jp/
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